■金利上昇、株価下落の「逆金融相場」入りの可能性大
――米国がインフレ抑制策として、金融引き締めに舵を切りました。日米の株式市場では株価が下落し、ビットコインなどの暗号資産も急落しています。一方、外国為替市場では、ドル/円相場が約24年ぶりの円安(ドル高)となっています。今のところ、上がるのは米ドルだけという相場環境ですが、どのようにお考えでしょうか?
まず、意識しておきたいのは、足元の相場環境が大きく変化しているということです。株式相場には、「金融相場」「業績相場」「逆金融相場」「逆業績相場」という4つのサイクルが存在します。
簡単に説明すると、金融相場では不景気を打開するために金利を引き下げ、市中に流通するマネーの量を増やして景気と株価を刺激します。各国がコロナ禍で行ってきた政策ですね。金融相場では、金利が下がり、株価が上昇します。金融緩和の効果が出始めると、徐々に企業業績が回復し始め、株価が本格的に上昇していきます。これが業績相場です。
一方、企業業績や景気が拡大しすぎると、今度はインフレ懸念が台頭してきます。そこでこれまで行ってきた金融緩和を引き締めて、物価の安定を図ろうとします。これが逆金融相場で、一般的に金利は上昇し、株価は下落します。その結果、景気が下降していきますので、企業業績は徐々に悪化し、株価が下落していきます。これが逆業績相場です。
――つまり、各国が政策金利を引き上げ始めた現在は、逆金融相場ということでしょうか?
その可能性は十分にあります。相場のサイクルというのは、後からわかるものなのですが、現在の状況を鑑みると、逆金融相場の入り口にあると考えることができます。金利が上昇していく逆金融相場では、投資家の資金がリスクを嫌って株式市場から金利の高い金融商品へと流れていくため、株価は下落していきます。仮に現在が逆金融相場の入り口にいるのであれば、しばらくは株式投資家にとって厳しい環境が続くことになりそうです。
――投資家としては、ここからどのように相場と向き合えばいいのでしょうか?
まずは、先ほど述べた4つのサイクルを常に意識しておくことが大切です。そして、実際の投資に対しては、必ずテクニカル分析を参考に、買い場や売り場を探るようにしてください。そもそもテクニカル分析というのは、各国の金融政策や企業業績はもちろん、自然災害や紛争という世の中のすべてのファンダメンタルズが反映されているというのが前提になっています。
確かに、チャート自体は、過去の値動きを書き足しているだけのものです。しかし、相場は繰り返していくものですから、過去の値動きを無視はできないのです。もっとも、現在のように先行きが不透明な相場環境では、1つのテクニカルだけではなく、いくつかのテクニカルを掛け合わせて分析することが大切です。
――1つのテクニカル分析だけでは、先行きの判断は難しいということですね。
テクニカル分析といっても、相場の全向性(トレンド)を見極める「トレンド系」や、売られ過ぎや買われ過ぎと言った相場の過熱感を示す「オシレーター系」など、さまざまです。それぞれに強みや弱みがありますので、精度を上げるために複数のテクニカル分析を併用するというわけです。実際に、証券会社の情報ツールなどを活用して、直近の株価の値動きにいくつかのテクニカルを組み合わせて、どれが機能しているのかを探し出してください。
■日経平均の上昇と下落をピタリと当てた2つのテクニカル分析とは?
――最近では、個人投資家にもおなじみの日経平均株価の乱高下が目立ちます。今どきの日経平均株価の先読みにマッチしたテクニカル分析を教えてください。
実際に、私がここ最近の日経平均株価に、いくつかのテクニカルを組み合わせてみたところ、MACD(マックディー)とDMIの組み合わせが相場の転換点を示唆していることがわかりました。MACDは、トレンド系とオシレーター系の両方の要素を持ち合わせている分析手法です。MACDでは、MACD線がMACDシグナル線を下から上に突き抜けたタイミングが買い、上から下に突き抜けたタイミングが売りと判断します。
一方、DMIは、市場の全体的な方向性を見極めることを目的とした順張り型の指標です。DMIの特徴は、当日の高値と安値が前日の高値と安値に比べてどちらが大きいかを見極め、相場の強弱を読むところにあり、価格の変動幅からトレンドを分析するところにあります。DMIでは、一般的にローソク足チャートが上段に表示され、下段に「+DI」と「-DI」、そして「ADX」の3つの折れ線グラフが表示されます。
- +DIは、上昇力を示す上昇方向の指数
- -DIは、下降力を示す下降方向の指数
- ARXは、上昇および下降トレンドの強弱を示す指数
DMIにおけるトレンドの判断は、以下の通りです。
- 上昇トレンドでは、+DIが上昇、-DIが下降、ADXが上昇
- 下落トレンドでは、+DIが下降、-DIが上昇、ADXが下降
買いシグナルの判断は、+DIが-DIを下から上に突き抜けたとき、売りシグナルの判断は、+DIが-DIを上から下に突き抜けたときです。
図版は、直近の日経平均株価にMACDとDMIの2つのテクニカル分析を組み合わせたものです。MACDとMACDシグナルのクロスと、DMIの+DIと-DIのクロスがほぼ同時に発生していることがわかるはずです。このように複数のテクニカルを組み合わせることで、ダマシを回避できるというわけです。
※チャート図版入る
■個人投資家でも同じ土俵で勝負できるテクニカル分析
――投資家には、テクニカル重視派とファンダメンタルズ重視派がいると思いますが、テクニカル分析の強みはどのようなところでしょうか?
テクニカル分析の優れているところは、日本株や米国株といった株式投資だけではなく、FX(外国為替証拠金取引)や暗号資産など、さまざまな金融商品の相場に活用できるという点です。もちろん、景気動向や企業業績といったファンダメンタルズ分析はとても重要です。しかし、ファンダメンタルズ分析では、機関投資家や証券会社のアナリストなど、それをなりわいとしているプロたちには情報量やスピードといった点において、一般の投資家は太刀打ちできません。
一方、テクニカル分析であれば、プロも個人投資家も平等に分析ができます。特に、最近のネット証券やFX会社の情報分析ツールは、簡単な操作でさまざまなテクニカル分析を表示ができます。ですので、銘柄選びではファンダメンタルズを重視する投資家も、売買のタイミングはテクニカル分析を参考にしてもらいたいと思います。
注意したいのは、せっかくテクニカルで売買サインが出ているのにそれを無視して自分の願望でトレードしてしまうことです。テクニカル分析で損切りのサインが出ているのに、「もう少し我慢すれば買値まで戻るはず」と根拠のない願望から損切りをためらってしまったことはありませんか?それがうまくいくこともありますが、長い目で見れば、失敗のほうが多くなってしまうはずです。
――下落トレンドの相場環境で勝つには、どうすればいいのでしょうか?
株式投資において、相場の下落で収益を出すためには「売り」から入る必要があります。ただ、信用取引を活用して「売り」から入るのはリスクが高いと言われていることもあって、「売り」を嫌う個人投資家も少なくありません。そういう方であれば、一時的に相場を休んでみることも重要です。そして、テクニカル分析を活用して、次の買い場を探ってください。投資に焦りは禁物です。個人投資家であれば、勝てる確率の高いときにだけ出動するようにしてはいかがでしょうか?
プロフィール
福島 理(ふくしま・ただし) 1974年千葉県生まれ。大学卒業後、大手印刷機器メーカーに入社。ITバブル崩壊後の2000年から投資をスタート。2005年、証券業界に転身。自らの投資経験に基づき、個人投資家にテクニカル分析を中心とした啓蒙活動を行う。現在はマネックス証券にて、マネックス・ユニバーシティ室長として投資教育などを活動的に従事。2021年に上梓した『勝ってる投資家はみんな知ってるチャート分析』(扶桑社)は重版を重ね、2022年5月には第2弾となる『勝ってる投資家はみんな知ってるチャート分析2』(扶桑社)が発売された。
※プロフィール写真と、可能であれば新刊の書影を入れてください。